短編小説『回らない寿司屋の大将は恐ろしい』後編
何が起きたのか信じられないと呆気にとられている、もう一人の客。
「な、な、何を……してるんだ!?」
板前は何も言わずに、いきなり客を強力なアッパーで下から真上に顎を撃ち抜いた。客の頭が天井を突き破り、ぶら下がっている。
まだ、大将は黙々と作業を続けている。
板前が再び私を見る。
やられる!! そう思った瞬間に板前は私に向かって右腕を大きく振り上げていた。私もそれに合わせる。二人の右の拳が激しくぶつかり合い、骨と骨がうねりをあげて私の右腕が弾き飛ばされた。力ではあちらが断然に上だ。
「ほう……やるな小娘」
「ずいぶんと上からね……化物」
右腕が痺れる。まともに正面からやりあっても勝ち目はない。ならば武器を使わせてもらう。
私は膝を深く曲げて、前屈みになる。
「何の真似か知らないが、行くぞ!」
板前が勢いよく前に飛び出し突進。私は溜め込んだバネを解放して、高く飛び上がり突進を交わして後ろに回り込む。天井からぶら下がっている客を強引に引き抜く。
引き抜かれたか客は白目を剥いて気を失っている。私は客を剣のように構えた。
「ここからが本番よ」
「ほう、同じ人間を武器に使うか、面白い」
私は回転して、客に遠心力をつけて強力な一撃を板前に叩きつけた。板前は両手で防いだが勢いを殺しきれずに大きく弾き飛ばされた。すかさずに追い討ち。客を大きく振りかぶり板前の頭に叩きつけた。二人の頭蓋骨が砕ける音が店内に豪快に鳴り響いた。
「やったわ……」
私は口から泡を垂れ流している客を放り捨てた。
「ま……だ……終わって……ない!!」
板前は最後の力を振り絞って反撃にくる。
「しぶといわよ!」
二人同時に突進。板前の拳が私の顔面を撃ち抜き。私の拳が板前のみぞおちに突き刺さる。相討ち。板前の口からゴキブリが吐き出されて地面に倒れた。私は倒れながら吐き出されたゴキブリを叩き潰した。
私は薄れゆく意識の中で最後に見たのは、黙々と寿司握り続ける大将の姿だった…………………(どんだけ握るの遅いのよ)